第9話「売られる日」


夜、




いつものバーヘ向かうギルバート





この町には、ここしか飲み屋はなく、

以前からマスターとは知り合いで、
ギルバートにとってはここぐらいしか気軽に入れる店はなかった。






カラン♪



「おう、いらっしゃ〜い」




「ギルバートじゃねぇか。
あれからちゃんと家には帰ったのか?」

「あぁ、まぁな」



「あっちのテーブル席行ってるわ」

「おう、すまねぇな。
後でメシ作ってやっから待っててくれ!」




ガタ・・・

ギルバートはこの店のマスターとは仲が良いため、
いつもタダでご飯をもらっていたのだった。




「・・・・ねぇ、マスター。」

「あの子・・・、ここによく来るのかしら?」


「ん、あぁ、ギルバートの事か?」



「なんだい、ねーさん。
若い子に興味があるのかい?」

「まぁ、おほほ。
否定はしないわ!」



「そうかい・・・、
ギルバートの家庭はちょっと複雑でな
よくここにメシを食いに来るのよ」

「まぁそうなの、
可哀想な子なのね・・・・」



「(こんな田舎町じゃ、ロクな子はいないと思っていたけど、
彼・・・・いいわ!)」

「今夜の相手は彼にしましょう!」



「・・・ん?なんか言ったかい?」

「い、いえ、なんでもないですわ!おほほ」



「おい、ギルバート。
カウンター席あいたから、こっちきな」

「あぁ」



ガタ

「(まぁ、近くで見るとますますいい子ねぇ。)」




「ギルバート、何食う?」

「一番安いのでいいよ」









「・・・・もう、マスター聞いてよぉ〜
うちの主人ったらひどいのよ〜〜?」

「私が仕事で出張に行ってる間に、
うちの人ったら浮気してたのよ〜〜!」




「しかも、私より年下の女とよ!?
問い詰めたら「それが何?」ですって!
もう本当許せないわ!!」

「浮気するのが当然だとでも思っているのかしら!!
そんなに若い子がいいんだったら、いいわよ!


私だって浮気してやるんだからーーーー!!」



「ちょ、ちょっと待ってなギルバート・・・」


「うん・・・」




「もう、マスター!聞いてるの〜〜〜!!?」




「あら、アナタいいじゃない!
私の浮気相手になってくれないかしら?」



「え・・・・?」


「ちょっとお客さん、困りますよ〜〜」

「何よ、マスターは関係ないでしょ!」


「でもコイツは・・・・」




「大丈夫!ちょっと浮気相手のフリをにして
くれるだけでいいから!それにタダとは言わないわ!」

「ちゃんと報酬は払うわよ!アナタの望む金額を言いなさい。
当然でしょ?私のワガママに付き合ってくれるのだから」



横の男「・・・ボソ・・・い、いいなぁ」



「(報酬・・・・・)」

ギルバートは父親に言われた事を思い出した。





金は欲しい・・・・・が、






好きでもない女性とそーゆう事をする気にはなれない。




しかし、そうする以外に道はないとも思っていた。







「・・・・わかった。
いいよ、別に」

「あら、嬉しいわ♪交渉成立ね!
じゃ、早速行きましょ」



ガタ・・・


「(ウフフ、ちょっとお金をちらつかせれば
貧しい子はみんなこの話に乗ってくるのよね〜
チョロイわ・・・・)」

「お、おい、ギルバート・・・」




「大丈夫だよ・・・・」

「だ、だがなぁ・・・・」



「さ、行きましょ!」

彼女はショタコンであり、若い男の子をターゲットと
している女。
自分の快楽のためには他人を犠牲にしても
厭わないと思っている。





ギルバートは父親の事もあり、
世の中の事などどーでもよくなっていた・・・。

そして、自分が傷つく事になるともしらず、
ただ彼女の言われるがままになろうとしていた。





全てに対して興味がなく、生きる気力すら失って
しまっていたのだった・・・。

だが、ギルバートは彼女の後姿を見て思った・・・。




この女性も可哀想な人なのだと・・・・。

色々な事が嫌になり、ヤケになっているだけなんだと・・・・。











「え・・・・・やめる?」

「ちょっと、どうして?
お金欲しくないの?」



「あぁ、いらない。
やっぱりこうゆうの良くないと思うし・・・」

「でも、お金・・・・欲しいでしょ?」



「いらない。アンタからはもらわない・・・。」


「どうして?
だって食べるものとか困ってるんじゃないの?」

「困ってないよ、探せば色々あるし」


「さ、探せばって・・・・」



「それに、浮気されたからって
浮気の仕返しの道具にされんのもシャクだしね」

「そ、それは・・・・」



「そんじゃ・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・・」





ギルバートは名も知らぬ女性の誘いを断り、
闇へ消えて行った・・・・。

結局この日は家に帰ることもなく、
再び公園などで夜を明かしたのである・・・・・










翌日、


ギルバートは学校をさぼり、

一人、公園で黄昏ていた・・・




正直、心がまいっていて何もする気が起きない・・・・。

誰にも会いたくないし、誰とも話したくなかった・・・。




その時、遠くで聞き覚えのある人の声がした・・・。




「・・・ッチ、なんだよ。
人がナーバスになってるってのによぉ・・・」

「誰だよ・・・・。」





カセリンとカルロスだった。

「なんだよ、今更・・・・
もう話す事なんてないよ」





「・・・・・・・・、
なんだよ、またあの二人か・・・・」

ギルバートはまたもや隠れて二人のやりとりを見ていた・・・。






「この間はゴメン、カルロスくん。
あたし、自分の事しか考えてなかった・・・と思う。」

「でも、やっぱりカルロスくんの事は諦められなくて・・・」


「なんで?」





「す、好きだから・・・・」

「カルロスくんの事、好きなんだもん」





「だ、だからね、もう一度付き合ってほしいんだ・・・。
今度はちゃんと・・・するから・・・」

「ちゃんと?」


「う、うん・・・」







「まぁ、この間は僕も悪かったよ・・・・
せっかく家に来てくれたのに、あんな事して・・・・」

「僕も自分の事しか考えてなかった・・・・ゴメン。」


「ううん、いいの。
あたしも拒んじゃってごめんね。」



「それじゃあ、もう一度やり直そうか。」
「い、いいの?ありがとう!」

「・・・・・・・・」





ギルバートは、何故か心が空しくなってきていた。

二人がよりを戻そうとしているからか、


それとも、ノンキに好きだ嫌いだと言っている
平和な二人に対して嫉妬しているのか・・・・




ギルバートは色々複雑な感情が入り混じっていた・・・・。









「じゃあ、今ここでキスできる?」
「えっ!!!!」

「こ、ここで・・・!!?
い、今!?」


「うん!」





「こ、ここでするの・・・?」
「いや?」

「だって、誰かに見られたら・・・・」
「誰もいないけど」



「だって、もう一度付き合うってコトはそーゆう事
していいってコトでしょ?」

「え・・・・・、で、でも・・・・」





「(し、しなきゃダメなのかな・・・・やっぱり・・・・)」

「(カルロスくんが望んでいるんだもん・・・・
し、しなきゃ・・・・!)」





「い、いいよ!ここでキス・・・・しよ。」

「え・・・・、い、いいの!?」


「うん・・・!」




「じゃあ・・・・」








その時だった・・・!!!!







ガサガサガサッ






ボグッ


「うがっ」



「うわぁ〜〜たすけて〜〜〜〜〜〜」ボカッスカッ

「ちょ、ギルバート!?」



「うわぁぁぁ〜〜ん、何するんだよぉぉ〜〜〜!!」

「うるせー、このクソッタレが!!」



「うっ、うっ・・・・
ヒ、ヒドイ・・・!いきなり殴るなんて・・・・」

「って、えっ!!ギ、ギルバート!?・・・くん・・・ですか?」



「(な、なんで学校一の問題児が
こんなトコにいるんだよ・・・!!)」ガクゥーー

「カ、カルロスくん、大丈夫!?
ちょっとギルバート、謝りなさ・・・・」





ダッ


「あ・・・!カルロスくん!!」


「・・・・・・・・」






もう!





なんて事するのよ!?」

「なんでいきなり殴ったりしたの!?」





「・・・・・・ムカツクから」

「なによ、それ!
ムカツクからって誰でも殴っていいワケ!?」



「もう、ホントいい加減にして!!
人が幸せなろうとしてんのに邪魔しないでよ!!」

「はぁ?どこが幸せなんだよ!
嫌がってたじゃねぇかよ!!」




「い、嫌がってなんかないわよ!
覚悟したんだもん、嫌じゃないよ!!」

「はーん、どーだか・・・」




「ムッ」





「・・・・・・・・」

「・・・・な、なによ」








「あんな奴と付き合わなくても・・・、
お前なら、そのうち金持ちのいい男と出会えるよ・・・」






「え・・・・・・」

「そ、そうかな?」





「しらねー・・・」


「・・・・・・ギル・・・」





「・・・・アイツ、何しに来たんだろ・・・・」

「まさか、あたしのため・・・・?」





「そんなワケ・・・・ないか・・・」






















カセリンと公園で会ったあと、ギルバートは考えていた。




もし、父を殺して自分が刑務所に入ったら、
もうカセリンと二度と会うことはないと思う・・・・






そんな事を考えたら、ギルバートは少し寂しいと思った・・・・。









ギルバートは父を殺したいほど憎んでいる。



母の事もあるが・・・、

家に帰ってきては「どこ行ってたんだっ」と怒られ、


金をせびられては、持ってないと
「金を持ってくるまで帰ってくんな!」と怒鳴られる。





しかも「身体を売って稼いでこい」とまで言われ、





ギルバートは精神的に追い詰められていた・・・。












家に帰ってきたギルバート




家には見慣れない黒服の男達がいた・・・




「親父・・・・?」

「!!」





「おう、やっと帰ってきやがったか!!」

「この黒服の奴らは一体・・・・」




「この子がご子息ですか」

「おう、俺がこの日のために、大切に育ててやったんだぜ!」




「クスッ、大切に・・・・・・ね」





「??」

「わりーな、ギルバート。
ここはもうお前が帰ってくる場所じゃないんだわ」




「は?何言って・・・・」

「呑み込みがワリーな・・・・」










「お前を売ったって言ってんだよ」








「やっと、お前を高く買い取ってくれる
トコが見つかったんだ!
俺はこの金で遊んで暮らすのさ!!」

「だから、俺はもうお前の父親じゃねぇんだよ。」



「これからはこの黒服の奴らが、
お前の主人だ。わかったな!」

「ククク・・・・、ヒドイ父親ですねぇ」





「お、親父・・・・」

「親父じゃねぇって言ってんだろ!?
もうお前にゃ用はねーんだよ、さっさと連れてってくれ」




「初めまして、ギルバートくん。
私達がアナタの新しい主人ですよ〜」

「アナタは私たちが買い取らせてもらいました。
逃げたりしないで下さいね、私達もこんな子供を
いたぶるのはイヤですからねぇ。」





「さぁ、行きましょうか・・・」

「お・・・・」





バタン

「・・・・・・・」







「・・・・・(売られたのか・・・俺)」






「(・・・でも、俺は運がいい方かもしれない・・・・)」

ギルバートはむしろ感謝していた・・・



父親に何かする前に、向こうから父子の縁を
断ち切ってくれたことに・・・・・



ギルバートは黒服達の車に乗り、







どこかへ連れて行かれるのだった。