第8話「どうしようもない衝動」


ドン・パッチの家



前回、ギルバートにムードレットマネージャーで
攻撃したドン・パッチは、


眠気に耐えられなくなったギルバートを家に
連れてきて、ソファで寝かせていた・・・。



「ZZzzz・・・」




「やっぱカセリンのメシが一番うめぇな♪」

「おい、オメェも食うか?食いてぇだろ?」



「ぐーーース〜〜〜〜・・・・・」

「おーい、聞けよ〜〜〜」



「カセリンも、もう寝ちまったよな〜」

「あ〜金がなきゃ、この先こんなウマいメシも
食えなくなるのか・・・・
マジでどうしよ・・・・、金・・・金がいるな・・・・」






「おーい、こら。このクソガキ〜〜」

「そんな所で寝てると風邪引くぞ〜〜〜
こら、起きろ〜〜〜」



「む・・・・」ムクリ

「向こうにベットあっから、そこで寝な」


「ん〜・・・」





「ぐ〜〜〜・・・・・」

ギルバートはかつてない程の、とても寝心地の良いベットで
ぐったりと寝ていた。




一応の自分の家では、床板にうずくまって眠り・・・


チルダの家の安物のベットでは背中が痛くなり・・・・

公園のベンチでは、やはり落ち着いて眠る事ができなかった。



しかし、ムードレットマネージャーで攻撃されたとはいえ、
精神的にも肉体的にも疲れきっていたギルバートにとって、
ドン・パッチとの出会いはとてもラッキーなモノであった。

「グゥグゥ(にいちゃんも大変よなぁ〜
まさかダンナに目ェつけられようとはのぅ・・・)」






一方、ギルバートが眠る隣の部屋には

カセリンがフィニーの夢を見ながら寝ていた。


「うぅ〜ん・・・・フィニー〜〜むにゃむにゃ・・・」

カセリンは、隣の部屋でギルバートが寝ている事など
知る由もなかった・・・。






「おーい、ティム〜〜〜〜起きろ〜〜〜!」




「ドウシタノデショウカ、オ父様」

寝ている所をたたき起こされたモンスター、ティム。



「どうしたのじゃねぇ!
俺のベット、今他の奴に貸してて俺の寝る所がねーんだよっ」

「ナ、ナンデスッテ!?」



「だからお前のベットで寝させてもらうぜ!」ガバッ

「ソ、ソンナ・・・
オ父様、ヒドイ・・・・」



パッチに無理矢理ベットを奪われ、ソファで寂しく眠るティム。

「シクシク・・・・
心ガ サムイ・・・・・」











朝、







「う、う〜ん・・・?」





「ここ・・・どこだ・・・?」




「なんか、すっげぇ気持ち良く眠った気がする・・・・」

「なんだ、このベット・・・・
今までのと違う・・・・、フワフワしてるし・・・」



「もうちょっとこの布団に抱かれていたいけど、
マジでここどこだよ・・・」

「ZZzzzz」




「ん、フィニー・・・?
・・・・って、ことはココはアイツの家・・・・」

「そういや昨日の夜、地底人に・・・・
いや、たぶんあの女の父親か誰かに何かされて・・・・」




「やべ・・・、早く逃げ・・・・」カチャ

「・・・・・・・・・・」



「なんかいる・・・・・・」

「ワゥ?(よう、あんさん。起きたんかい?」


「・・・ボソ・・・やべぇ、バレないようにしなきゃ・・・・」

「ワゥ(なんじゃ、朝からかくれんぼかい?
それならワシも協力しようかのぅ)」






ソロ〜リソロ〜〜リ・・・・

「フンフ〜〜〜〜ン♪」




「(よしよし、そのままでいろよ〜〜〜)」

「(しかし、なんだろなコイツ・・・・
発明家の造るモノはよくわからん・・・・)」







ガチャ


バタバタ・・・

「ム?」





「脱出成功〜〜〜〜!!
あ〜〜危なかった・・・・」









「・・・・・・・」



「・・・・・・・・・?」

「・・・・ナンデショウ?」


「何も言ってないよ、
朝からおかしーんじゃない?ティム・・・」

「ちゃんとドア閉めなよ」



ティムに対して冷たいカセリン・・・




ダークカセリンが目覚めつつあった・・・。





「よう、おはよ〜〜」

「あれ、パパ。
なんで地下から・・・・」



「おう、ちょっとな〜」カチャ




「あれ?いない・・・・・」

「どこ行ったんだ、あのガキ」






「なぁ、カセリン。
小僧見なかった?」




「小僧・・・って、誰?」

「昨日、俺が連れ帰ったガキだよ」




「しらない。
会ってないし・・・」

「そう・・・・・」






カチャカチャ

「・・・・(何、ガキって!
あたしの事は放っておいて、見知らぬ子供なんか構ってさ・・・!
パパなんかもう知らない!)」












朝早くにパッチの家を出て行ったギルバートは

やはりあの父親のいる家に帰る事にした・・・。



ギルバートにとっては、あんな父親がいる家でも
あそこが我が家なのだ。

たとえ居場所が部屋の隅っこだったとしても、
あの家に帰るしかなかったのだった・・・。








ロップス家




「テメェ、今までどこで何してやがった・・・」

「・・・・・・・」



「どこで何してやがったって聞いてんだよ!
二日も帰ってこねーでよぅ!!
場合によっちゃ殴るぞ!?」

「こ、公園に泊まったり・・・・
してたんだよ・・・・」



「はぁ?なんで公園なんかに泊まんだよ。
家があんだろーが!!」

「そ、そーだけどさ・・・・」


「ッチ・・・・
(死なれちゃ困んだよ、死なれちゃよぉ・・・・)」

「・・・・・メシ、食ったのか?」



「い、いや・・・・」

「冷蔵庫にパンがあるから、それ食えや」




「・・・・・・・」

ギルバートは、無断で二日も家に帰らなかった事に対して
あの父親が怒った事がすごく疑問であった・・・。




自分の事など心配するハズもないと思っていたからだ・・・・。


ギルバートは、自分を心配してくれたのかと
そんな期待を持ち始めていた・・・。









冷蔵庫から異臭のようなニオイが漂っていた。

ギルバートは、やはり殺す気じゃないかと思った。



朝から何も食べていないギルバートにとって、

めずらしく父親から出された食事が
とても貴重で、すごく美味しく感じられた・・・。












「・・・・・・」



「ッチ・・・、貴重なメシ、
バクバク食いやがってよ・・・・」

「アイツ、二日も帰ってこなかったんだ、
さぞや美味いモンでもたらふく食ってたに違いねぇ・・・」







「おい、ギルバート。」

「俺がただでテメェに食いモンやるワケがねぇって
事ぐらい解ってんだろーな?」





「二日も家に帰ってこなかったんだ・・・・、
相当稼ぎが良かったんだろ?あ?」

「・・・・・・・(やっぱり金か・・・)」



「さっき公園に泊まったって言ったろ・・・
稼ぎなんか何もないよ」

「あぁ?」



「何言ってんだ、テメー!
んなワケねーだろ、あんだろ!金がよ!?出せよっ!!」

「何もねーよ!!」



「バッカ、テメー!
ふざけた事抜かしてんじゃねぇよ!
お前が家に帰らない間、俺がどんな目にあったか知ってるか!?」

「ったく、あのクソ女と同じ顔して、
どこまでも俺をイラつかせやがって・・・・」



「金がねぇなら稼いで来い!
それなりに売れんだろ、その身体でよぉ!!」

「女でも悦ばして、貢がせてこいよ!」


「はぁ?じょーだんじゃ・・・・」




「じゃーだんじゃねぇんだよ!!」バシンッ

「いっ・・・・」



「テメーなんか、ソレしか使い道ねぇんだから
俺の言う通りにしてりゃあいいんだよ!!」

「いつもいつも口答えばっかしやがって!」




「テメェを産んだあのクソ女なんかなぁ、
テメェを身籠ったせいで病気になっちまったんだよ!」

「しかもお前を産んだ後、病院の屋上から飛び降りたんだぞ!!
テメーなんか誰にも望まれてねーんだよ、
そんなお前を俺が使ってやってるんじゃねぇか!!」





「ここまで大きくしてやったのは誰だ?あぁ?」

「な、なんだよソレ・・・・」




「・・・・・俺は・・・・・
俺は生まれてきちゃいけなかったって言うのかよ・・・」

「なんだよ・・・・・クソ・・・・」





「誰もテメーなんか必要としてねーんだからよ、
俺の言う通りにしてりゃあいいんだよ」

「わかったら、さっさと金稼いでこい!
テメーは顔だきゃあそれなりにいいんだからよ、
ちょっと頑張りゃあ、すぐ大金持ちになるぜぇ!!」




「・・・・親父なんか・・・・嫌いだ・・・・
みんな・・・・大っ嫌いだ・・・・!」

「何泣いてんだよ、さっさと行けよ!」



「こんな家、誰が帰ってくるか!!」ダッ

「ちゃんと避妊させんだぞ!
後で慰謝料とか請求されたらメンドーだからよ」







バタンッ

ギルバートは家に一分一秒でも居るのが
耐えられなくなり、再び外へと飛び出して行った・・・。





「ッチ・・・・、
クソの役にも立たんガキが・・・・!」














「はぁ・・・はぁ・・・」




ギルバートは、家も何もない道を
ただただ走り続けていた。





今まで父親から「あのクソ女」という言葉は耳にしてはいたが、詳しく母親の事など聞いたことはなかった。

自分には母親はいないモノと思っていたからだ・・・・。





しかし、さすがにアレにはショックだった・・・。

父親に必要とされていないのは分かっていたが、
母親にも必要とされていなかった事がショックだったし、



自分のせいで母親が病気になり、命を絶った事が
何よりもキツかった・・・・・。





そして、だんだんと・・・・
ギルバートの心にモヤモヤしたものが湧き上がってきた。

今までよりもとてつもない怒りに心を支配され・・・




その怒りは父親である、ロドリゲスに向けられる・・・・




ギルバートは父親に対して
今までも何度も悔しい思いをして腹が立った時もあったが、

この時だけは、初めて父親に殺意を抱いたのだった・・・・。